『Fast Company』が発表した2025年の「最も革新的なPRおよびブランド戦略企業」には、MastercardやUberの名が挙がりました。これらの企業は、単なるマーケティングではなく、ブランドの存在意義そのものを再定義し、消費者の心に深く刻まれる戦略を展開しています。本記事では、両社のブランディング戦略を分析し、今後のマーケティングのヒントを探ります。
Mastercardは長年、単なる決済システムではなく「価値ある体験を創出するブランド」としての地位を築いてきました。特に近年は「無形の価値」を重視し、ブランドロゴの削除や音声ブランディングの導入といった、従来のブランディングの枠を超えた戦略を展開しています。
Mastercardは「Priceless(お金では買えない価値)」というキャンペーンを長年続けていますが、最近ではこのコンセプトをより具体的な「体験」に結びつけています。たとえば、スポーツイベントや音楽フェスのVIP体験、グルメイベントへの独占アクセスなど、ユーザーが「Mastercardを持つことで特別な体験ができる」と感じる仕掛けを展開。
近年の特徴的な取り組みの一つが、音声ブランディングの強化です。Mastercardは決済時に独自のサウンドを流すことで、視覚情報に頼らずブランドの認識を高める戦略を実施。また、2020年にはブランド独自の音楽アルバム「Priceless」を発表し、消費者との感情的なつながりを深めています。
サステナビリティの観点からも、Mastercardはブランド価値を高めています。たとえば、カードの素材をプラスチックからリサイクル素材に変えたり、カーボンフットプリントを可視化する取り組みを進めたりと、環境に配慮するブランドとしての認知度を高めています。
Uberはもともとライドシェアサービスとしてスタートしましたが、現在はフードデリバリー(Uber Eats)や貨物輸送(Uber Freight)など、多様なサービスを展開。最近のブランディング戦略では、消費者の「生活の一部」となることを目指しています。
Uberは単なるタクシーアプリではなく、移動やデリバリーを通じて日常生活のインフラの一部となることを目指しています。特に「ワンタップでどこへでも行ける」利便性を強調し、消費者が自然にUberを使う習慣を形成。
過去にはドライバーの待遇や安全性の問題が指摘されていましたが、Uberはブランドの信頼性向上に向けて積極的に施策を打ち出しました。例えば、安全機能の強化(AIを活用した不審な運転検出機能)、乗車前のドライバー情報の透明化など、ユーザーが安心して利用できるブランドイメージを構築。
Uberは多くのブランドとコラボレーションすることで、ブランドの認知度と信頼性を向上させています。たとえば、スターバックスとの提携による「Uber Eatsでのコーヒーデリバリー」や、Netflixとのコラボで「映画のプレミア試写にUberで行ける特別キャンペーン」など、移動体験を超えたブランドの拡張を実現。
MastercardとUberのブランディング戦略を比較すると、どちらも「消費者のライフスタイルに深く入り込む」アプローチを取っていることが分かります。
今後のブランディングにおいては、単なる広告戦略ではなく「ブランドがどう生活に溶け込むか」「消費者がどう感じるか」を重視したアプローチが求められるでしょう。企業が消費者の「五感」と「感情」に訴えかけることで、より強いブランド体験を生み出すことができます。