今、ジュエリー業界で静かに、しかし着実に勢いを増しているカテゴリーがあります。
それがデミファインジュエリー(Demi-fine jewelry)。
手頃な価格と高級感のバランスを求める消費者心理の変化が、この市場を力強く押し上げています。
デミファインジュエリーとは、ファインジュエリー(純金・プラチナ・高級宝石などを使った高価格帯)とファッションジュエリー(低価格・合金や人工石など使用)の中間に位置するカテゴリーです。
スターリングシルバーやゴールドヴェルメイユ(金メッキ)、半貴石など、本物志向の素材を使いながらも、価格帯はおおよそ100~500ドル(日本円で1万~5万円程度)と、「高すぎず安っぽくもない」絶妙なポジションを築いています。
デミファインジュエリー市場は、2025年までに21億米ドルに達すると予測され、さらに2032年には26億米ドルに到達する見込みです。年平均成長率(CAGR)は3.3%と、堅実な上昇を続けています。
この成長をけん引しているのが、ミレニアル世代とZ世代。彼らは「高品質=高価格」という既成概念に縛られず、コストパフォーマンス・個性・持続可能性といった観点から、商品を選びます。特に、カスタマイズ性やパーソナライズされたデザインが、自分らしさを大切にする世代の価値観にマッチしています。
現在、151〜300米ドルの価格帯が最も人気で、2024年にはこのセグメントが42.2%の市場シェアを占めると予想されています。
使用される素材は、ゴールドヴェルメイユ、スターリングシルバー、半貴石など、見た目にも高級感がありながら、日常的に使える耐久性と手頃さを兼ね備えています。
2024年の市場シェアのうち、64.5%が女性向け製品。ジュエリーは、単なる装飾品ではなく、感情やアイデンティティ、価値観の表現手段として、多くの女性にとって特別な存在です。
一方で、男性のジュエリー需要も増加傾向にあり、ジェンダーニュートラルなデザインの登場などにより、男性市場も着実に広がりつつあります。
販売チャネルとしては、今なおオフライン店舗が強く、2024年には86.3%のシェアを維持すると見られています。
しかし、オンラインでの試着体験やAR技術を活用したショッピングの浸透により、2030年にはオンラインが全体の35%を占めるとも予想されています。eコマースやSNSでのマーケティングが、若年層の購買行動を大きく変えているのです。
今後は、スマートジュエリー(デジタル機能を搭載したジュエリー)や、ジェンダーニュートラルなデザイン、さらにインフルエンサーによるSNS発信が、市場をさらに拡大させていくと見られています。特にZ世代は、ソーシャルメディア上での情報収集・共感を重視しており、ジュエリーブランドにとってはデジタル戦略が不可欠です。
手頃な価格と高品質を両立したデミファインジュエリーは、単なる流行ではなく、今の価値観やライフスタイルを反映した“現代の定番”になりつつあります。
自己表現・サステナビリティ・スマートな買い物——それらを重視する新世代に支持されながら、デミファインジュエリー市場はこれからも確実に拡大していくでしょう。